キルコス国際建築設計コンペティションでは、20組の審査員一人ひとりが、金賞・銀賞・ 銅賞・佳作を選定する国際建築設計コンペティションです。多くの作品を選定するのは、そのアイディアを見逃さないことで、建築の可能性を広げられるのではないか。そう強く信じるからです。またコンペティションが終わっても、一人ひとりの審査員が、どの作品を、どう評価したのかを見られる仕組みをつくることで、すべてのひとが建築について深く考えられます。私たちが目指すのは、多くの表現を通して建築の未来を考えられる空前絶後のアイディアコンペティションです。 後援している建築系ラジオでは、20組の審査員からの講評の収録を配信します。審査結果だけからではなく、一人ひとりの審査員の価値観がわかる、キルコス国際建築設計コンペティションならではの、見る見られるの感覚をお楽しみください。(北川啓介)
まず409点のパネルから単純すぎるものを除き、テーマに照らして思考がめぐらされており、さらに図版として一定の複雑さがあるものを選ぶと28点に絞られました。そこから提案の内容を吟味していくと、単なる時間的動きを表現したものと、社会のありようを示す批評性があるものの区別があることに気がつき、その点を加味すると12点に絞られました。さらに批評性だけでなく、提案性が含まれているものを探していくと5点に絞られました。 5点を詳細に検討していくと、1178は、単身の女の子の趣味的な空間で完結した住宅像が描かれており、近代化を終え消費社会化し、上野千鶴子のいう「おひとりさま」の国となってしまった現代日本の現状を表すには十分すぎるほどです。しかし、その病理を解決する糸口がこの表現には見いだせず、閉塞感のみが残ってしまいます。1178は慣習的な家型の形態を形式的に、手順的に崩していくことで多様性を得るというものです。CAD世代の変わりつつある感覚と慣習という変わらないものの創造的な関係を提示しているという点では評価できましたが、ここで示されているのは社会に対する提案というよりは建築家向けのお手本のようなもので、力強さに欠ける嫌いがあると感じました。 1288は1185同様、建築的概念を用いた多様性の表現に関するお手本=建築標本を主題としたものですが、社会に対する建築教育の必要性を宣言しており、外向きの提案です。洗練されてはいますが、抽象表現に留まっている点が惜しいと感じます。 1352は一見、漫画喫茶のような、個人的で趣味的な空間の居心地の良さを提示しているだけのように思えますが、プランをみると仮設住宅の立ち並ぶ光景のようにも見え、均質な独立住宅を供給してきた戦後日本社会全体のありようを示しつつ、個人的なスペースを確保した上で他人と関係を持ちたいというニーズに応える住居のあり方を提案していると読むことも出来ます。 1184は増築を繰り返して増大し、半分廃墟になるが、やがて被写体となるとあります。これは戦後日本の国土の変化そのものの姿であると気が付きました。今私たちは安らぎと廃墟のなかにいます。その姿に魅力を見出してを観光の対象として再生できるか。そのような日本の国土全体に対する批評と提案であると読めます。もちろん、これはこの文学的表現の多様な解釈の一つではありますが、その批評と提案の飛距離からして、今回の作品群のなかでは抜きん出ていると考えられます。 以上の見方によって、1184「名付けられる家」を金賞、1352「私達が想像してしまった住宅の未来」を銀賞、1288「建築標本」を銅賞、1178「至福の監獄」、1185「無題」を佳作として定めさせて頂きました。 (藤村龍至)
・出演者プロフィール
藤村龍至(ふじむら・りゅうじ)
建築家 ◎1976年東京生まれ ◎2008年東京工業大学大学院博士課程単位取得、2005年藤村龍至建築設計事務所主宰 ◎現在、東洋大学理工学部建築学科専任講師 ◎企画制作:『ROUNDABOUT JOURNAL』『ART and ARCHITECTURE REVIEW』 ◎作品:『BUILDING K』『東京郊外の家』など ◎著書:『1995年以後』など
・関連項目
キルコス国際建築設計コンペティション